日本経済新聞「私見卓見」

ミャンマーの市民に届く支援を
ミャンマー国際支援機構代表理事 永杉豊

ミャンマーでは2021年2月のクーデター以降、国軍が権力を掌握し、市民への武力弾圧を続けている。日本の国会は昨年、軍事クーデターを非難する決議を採択したが、喫緊の課題は生活困窮者への食糧や医療支援、避難民の救済だ。民主化支援のため、在日ミャンマー人や日本人社会活動家、超党派の国会議員らとともにNPOを立ち上げた。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本政府はウクライナへの緊急人道支援としておよそ400億円を拠出する。避難民受け入れにも積極的だ。一方、クーデターで混乱するミャンマーへの人道支援は、国連の児童基金や世界食糧計画、難民高等弁務官事務所を通じて、6月までにおよそ50億円を拠出したにすぎない。

それでも最低限の生活物資さえ不足している避難民にとっては貴重な支援になるはずだ。ところが実際にはこれらの支援はクーデターを起こした国軍関係者やクローニーと呼ばれるその取り巻きに横取りされ、本当に支援が必要な民主派の活動家や混乱の中で貧困に苦しむ市民には届いていない。

国軍は今でも多くの一般市民を虐殺している。私はミャンマー関連のニュースメディアの統括編集長も務めており、日々現地の惨状を耳にしている。北部のザガイン管区や中部マグウェ管区、チン州、カイン州、カヤー州など国軍に抵抗する地域の住民には、国軍による空爆や村の焼き打ち、妨害などで支援が届かない。一般市民は極度の困窮にあえいでいる。

最大都市ヤンゴンでさえ、郊外には多数の生活困窮者が発生している。そうした地域に昨年4月、日本から人道支援のコメが届いた。しかし「From the People of Japan」と書かれたコメ袋の中には、現地の人々でも食べない、ミャンマーで「鶏の餌」といわれる粉砕米が半分以上混入されていた。支援米の大半は盗まれたのだろう。

軍事クーデターで権力を奪い、民主化を否定する国軍の統治が既成事実化すれば、ミャンマーの未来が失われるだけでなく、日系企業のビジネスや日本の国益にもマイナスになる。日本の市民もウクライナだけでなく、ミャンマーにも支援の手を差し伸べてほしい。

日本経済新聞「私見卓見」(2022年8月10日)