安倍 昭恵 氏

ミャンマー国際支援機構(MIAO)の正会員には、長年にわたりミャンマーの寺子屋支援をされている安倍昭恵さんもおります。 今回はアウン・サン・スー・チーさんとも親交がある昭恵さんに、ミャンマーやMIAOに対する思いを語っていただきました。

Interview of MIAO Vol. 8
安倍 昭恵 氏 

教育現場からミャンマー支援を続ける
アウン・サン・スー・チー氏とも交流

 

2016年のミャンマー祭りでは、寺子屋で学ぶ10人の子供たちが招待された。 
©ミャンマー祭り

 私は2006年に初めてミャンマーを訪問したときに寺子屋の様子を拝見し、一生懸命に学ぶ子供たちを見てから、おもに教育現場のサポートを続けてきました。また日本で行われている「ミャンマー祭り」の代表理事も務めさせていただき、両国の文化交流に貢献できればと活動を続けてきましたが、その理由のひとつは「恩返し」なんです。

 第2次世界大戦中、日本兵がミャンマーの方々に大変お世話になりました。また、戦後に日本が食糧難に陥っていたとき、ミャンマーは大量のコメを支援してくださいました。そのご恩を少しでもお返しできれば、と思って活動をしています。ところが、アウン・サン・スー・チーさんにお会いしたときに「それは違いますよ」と言われたのです。彼女からは「日本とミャンマーは友人同士。何かをしてもらったから返すのではなく、困っているときはいつでもお互い助け合いましょう」と言葉をかけていただきました。

 クーデター以降はとくに寺子屋の子どもたちの暮らしが心配です。ロシアとウクライナの戦争を見ても思いますが、いったん始まってしまった争いを止めるのはとても難しいものです。その中で私自身なにができるのかをずっと考えてきましたが、なかなかわからず歯がゆい思いをしてきました。日本に住むミャンマー人の女性たちとも「ミャンマーの国外にいる私たちだからこそ、女性ならではの解決の糸口はないものか」と話し合ったことがあります。

 そんなときに、『NPO法人ミャンマー国際支援機構(MIAO)』の正会員にお誘いいただきました。お引き受けしたのはやはり、MIAOがミャンマーとしっかり向き合い、問題解決に尽力しているNPOだからです。代表を務める永杉さんとは親交もあり、信頼のある方だということも大きな理由です。

互いに助け合えるような両国の交流を

 MIAOにはスーチーさんの言うように、両国がお互い助け合えるような活動を期待したいと思っています。具体的にはやはり教育面でしょうか。私は児童養護施設の後援会長もしているのですが、そこで暮らす高校生たちをミャンマーの寺子屋に連れていったことがあるのですね。現地ではダンスを踊ったり紙風船を作ったり絵を描いたり、それぞれ得意なことをミャンマーの子どもたちに教えてもらったのです。すると子どもたちがもう大喜びで、日本人の高校生たちに感謝するんですよ。

 施設で育った高校生たちは、親の愛情には恵まれず、心に傷を抱えています。でもミャンマーの子どもたちが貧しいながらも心から楽しそうにしていて、自分たちに感謝を伝えてくることでなにかを感じたのか、彼たちも少しずつ気持ちや表情が変わってくるんですね。普段から支援者に対して「ありがとうございます」の手紙を書き続けるような毎日を送っている高校生たちが、「なにかをしてもらう」のではなく、自分からなにかをして、感謝が帰ってくるという喜びを知るのだと思います。

 ミャンマーの寺子屋の子どもたちを、日本のミャマー祭りに招いたことがあります。飛行機にも、エスカレーターにすら乗ったことのない子供たちが日本の発展ぶりに驚いて、日本の建築物は素晴らしい、ミャンマーにも建てたいなんて口々に言うのです。そうやってお互いに刺激を受け合うような交流もMIAOにも手がけてほしいですね。

©ミャンマー祭り

「平和の鐘」に込められたミャンマーへの思い

 2019年に大阪で行われたG20(第14回20か国・地域首脳会合)で、私は首相夫人として各国首脳の配偶者の皆さまをエスコートさせていただきましたが、そこで小さな「鐘」をお配りしました。国連に飾られている「平和の鐘」のミニチュアです。これは戦時中、日本兵としてミャンマーで戦い、負傷した経験から平和活動に携わるようになった愛媛県宇和島市元市長の中川千代治さんが、世界中の硬貨を集めて鋳造し、1954年に国連に寄贈したものです。

 そのミニチュアのひとつをスーチーさんにもお渡ししました。彼女は鐘を9回続けて鳴らすと、「9はミャンマーでは特別な数字で、縁起が良いと言われています。枕元にこれを置いて、毎日鳴らします」とおっしゃっていただきました。私も鐘を鳴らしながら、その思いに共鳴したいと思っています。そしていずれは、またミャンマー現地にも赴き、ミャンマーの人々や教育のためになにができるのか考えてみたいですね。

 ミャンマーには、経済ばかりを追い求めてきた日本人が忘れ去ってしまったものがたくさん残っています。一方、ミャンマーにも足りないものがたくさんあります。両国が補い合い、手を取り合ってアジアを牽引する力になれば、そしてそのための支援がMIAOでできればと考えています。

安倍昭恵 [Akie Abe]

東京都生まれ。聖心女子専門学校英語科卒業。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。株式会社電通の新聞局に勤務していた1987年、後に第90・96・97・98代内閣総理大臣となる安倍晋三氏と結婚。社会貢献活動に尽力しており、現在は公益財団法人社会貢献支援財団や一般社団法人ミャンマー祭りの会長を務める。ミャンマーとの関係も深く、学校建設などの活動を行っている。