根本 敬 氏

MIAOの正会員に名を連ねる上智大学グローバル学部教授の根本敬さん。長年、ビルマ(ミャンマー)近現代史を専門に研究を続けながら、同国の民主化運動を後押しする活動を続けてこられました。ご自身とビルマの過去、現在、そして未来をお聞きします。

Interview of MIAO Vol. 4
上智大学グローバル学部教授
根本 敬 氏

空港での偶然の出会いを機に研究の道へ
クーデターで貴重な研究期間が台無しに

 父が駐ビルマ日本国大使館の参事官だったため、私が5歳頃の1962年から2年半ほどラングーンに住んでいました。その後、日本へ帰国し大学へ進学したのですが、1年次の77年3月、13年ぶりにビルマへ旅行をしました。このとき偶然、マンダレーの空港の待合室で戦時中に日本軍とともに戦ったビルマ人男性と出会ったのです。これが転機となり、帰国後、大学での専攻をそれまでの教育学から東南アジア史(ビルマ近現代史)に変更。4年次には「日本占領下ビルマの対日姿勢」という題で卒論を書き、主にビルマ側の抗日闘争について考察しました。卒業後は教職や大学院進学を経て、89年から研究者として自立。主なテーマとして、日本占領期の抗日闘争の歴史、ビルマ・ナショナリズムの形成過程(特に1930年代タキン党の思想と行動)、ビルマ・ナショナリズムから排斥された英系ビルマ人、インド系の人々(ロヒンギャを含む)に関する研究などを行ってきました。

クーデター直後の弾圧に対し、祈りを持って抗議するカトリックのシスター。
2021年2月、ミャンマー北部ミッチナー市内で撮影されたもの


 

 大学教員にはサバティカル(研究だけに専念できる一年間)という制度があります。7年に1回しか権利がなく、私は2020年9月末にやっと2度目の権利を取得したのですが、それがミン・アウン・フライン総司令官の愚行のためにすべて吹き飛びました。連日の取材・出演・講演依頼に加え、世界中から多い時で1日200通ものメールが寄せられ、研究どころではなくなったのです。しかし、山形大学の今村真央教授に誘われ、ミャンマー市民を支援するクラウド・ファンディングの運営に関わり、それを通じて多くの良き交わりを得たことや、Z世代の在日ミャンマー人活動家の皆さんとも出会えたことは救いだったと言えるでしょう。

 これからのビルマはNUG(国民統一政府)を核とした「フェデラル民主制」に基づく国家を作るべきです。この体制のもと国軍は解体し、国民を守る国防軍を創設するしかないでしょう。そのために国際社会は「遠くから様子を見守る」ような消極的姿勢は許されません。日本についていえば、ミャンマー国軍将校の防衛大学校および自衛隊への「留学生」受け入れの即時停止、ODAプロジェクトの中断などが求められます。

 MIAOは敬愛する永杉さんからの個人的誘いがあったため、正会員になりました。「反クーデター政権」「親NUG」を貫き、苦しむミャンマー国民の生活支援に力を入れていただきたい。また、在日ミャンマー人との交流を深めるほか、日本政府への意見申し入れなども期待しています。最終目標である「NUGの勝利」に向け、私も共に力を尽くしていきたいと考えています。

上智大学グローバル学部教授

根本 敬 [Kei Nemoto]

1957年生まれ。上智大学総合グローバル学部教授。
専門はビルマ近現代史。1985年10月から1987年10月まで日本の文部省アジア諸国等派遣留学生として社会主義時代末期のビルマへ留学。帰国後、東京外国語大学アジア文化研究所勤務などを経て2014年4月より現職。主な著書に『物語ビルマの歴史:王朝時代から現代まで』(中公新書)、『アウンサンスーチーのビルマ:民主化と国民和解への道』(岩波書店)など。